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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

」とお民はまた顔を染めながら言った。「わたしもからだの都合で、またしばらく妻籠へは来られないかもしれません。」

「お前たちはいいよ。結婚生活が順調に行ってる証拠だよ。おれのところをごらん、おれが悪いのか、お里が悪いのか、そこはわからないがね、六年にもなってまだ子供がない。おれはお前たちがうらやましい。」

そこへおばあさんが来た。おばあさんは木曾の山の中にめずらしい横浜土産を置いて行った人があると言って、それをお民のいるところへ取り出して来て見せた。

「これだよ。これはお洗濯する時に使うものだそうなが、使い方はこれをくれた人にもよくわからない。あんまり美しいものだから横浜の異人屋敷から買って来たと言って、飯田の商人が土産に置いて行ったよ。」

石鹸という言葉もまだなかったほどの時だ。くれる飯田の商人も、もらう妻籠のおばあさんも、シャボンという名さえ知らなかった。おばあさんが紙の包みをあけて見せたものは、異国の花の形にできていて、薄桃色と白とある。

「御覧、よい香気だこと。」

とおばあさんに言われて、お民は目を細くしたが、第一その香気に驚かされた。

「お粂、お前もかいでごらん。