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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

その時、半蔵は子供の寝顔をちょっとのぞきに行ったあとで、熱いネブ茶に咽喉をうるおしながら言った。「なに、神葬祭のことで、すこしばかり九太夫さんとやり合った。壁をたたくものは手が痛いぐらいはおれも承知してるが、あんまり九太夫さんがわからないから。あの人は大変な立腹で、福島へ出張して申し開きをするなんて、そう言って、金兵衛さんのところへ出かけて行ったよ。でも、伊之助さんがそばにいて、おれの加勢をしてくれたのは、ありがたかった。あの人は頼もしいぞ。」

一年のうちの最も短い夜はふけやすいころだった。お民の懐妊はまだ目だつほどでもなかったが、それでもからだをだるそうにして、夫より先に宗太のそばへ横になりに行った。妻にも知らせまいとするその晩の半蔵が興奮は容易に去らない。彼は土蔵の入り口に近くいて、石段の前の柿の木から通って来る夜風を楽しみながらひとり起きていた。そのうちに、お民も眠りがたいかして、寝衣のままでまた夫のそばへ来た。

「お民、お前はもっとからだをだいじにしなくてもいいのかい。」

「妻籠でもそんなことを言われて来ましたっけ。」

「そう言えば、妻籠ではどんな話が出たね。