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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

眠りがたいままに、また起き出して入り口の戸をあけて見ると、東南の方角にあたる暗い空は下の方から黄ばんだ色にすこしずつ明るくなって来て、深夜の感じを与える。

遠い先祖代々の位牌、青山家の古い墓地、それらのものを預けてある馬籠の寺のことから、そこに黙って働いている松雲和尚のことがしきりに半蔵には問題の人になって来た。彼はあの万福寺の新住職として松雲を村はずれの新茶屋に迎えた日のことを思い出した。あれは雨のふる日で、六年の長い月日を行脚の旅に送って来た松雲が笠も草鞋もぬれながら、西からあの峠に着いた時であったことを思い出した。あのころは彼もまだ若かったが、すでに平田派の国学にこころざしていて、中世以来学問道徳の権威としてこの国に臨んで来た漢学び風の因習からも、仏の道で教えるような物の見方からも離れよということを深く心に銘ずるころであったから、新たに迎える住職のことを想像し、その住職の尊信する宗教のことを想像し、その人にも、その人の信仰にも、行く行くは反対を見いだすかもしれないような、ある予感に打たれずにはいられなかったことを思い出した。とうとう、その日がやって来たのだ。