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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

二人の隣人――吉左衛門と金兵衛とをよく比べて言う人に、中津川の宮川寛斎がある。この学問のある田舎医者に言わせると、馬籠は国境だ、おそらく町人気質の金兵衛にも、あの惣右衛門親子にも、商才に富む美濃人の血が混り合っているのだろう、そこへ行くと吉左衛門は多分に信濃の百姓であると。

吉左衛門が青山の家は馬籠の裏山にある本陣林のように古い。木曾谷の西のはずれに初めて馬籠の村を開拓したのも、相州三浦の方から移って来た青山監物の第二子であった。ここに一宇を建立して、万福寺と名づけたのも、これまた同じ人であった。万福寺殿昌屋常久禅定門、俗名青山次郎左衛門、隠居しての名を道斎と呼んだ人が、自分で建立した寺の墓地に眠ったのは、天正十二年の昔にあたる。

「金兵衛さんの家と、おれの家とは違う。」

と吉左衛門が自分の忰に言って見せるのも、その家族の歴史をさす。そういう吉左衛門が青山の家を継いだころは、十六代も連なり続いて来た木曾谷での最も古い家族の一つであった。

遠い馬籠の昔はくわしく知るよしもない。青山家の先祖が木曾にはいったのは、木曾義昌の時代で、おそらく福島の山村氏よりも古い。