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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

まあすこし出てごらんなさい。おきれいと言っていいか、おみごとと言っていいか、わたしは拝見しているうちに涙がこぼれて来ますよ。」

毎日のような女中方の通行だ。半蔵や伊之助は見物どころではなかった。この帰国する人たちの通行にかぎり、木曾下四宿へ五百人の新助郷が許され、特にお定めより割のよい相対雇いの賃銭まで許され、百人ばかりの伊那の百姓は馬籠へも来て詰めていた。町人四分、武家六分と言われる江戸もあとに見捨てて来た屋敷方の人々は、住み慣れた町々の方の財界の混乱を顧みるいとまもないようであった。

「国もとへ、国もとへ。」

その声は――解放された諸大名の家族が揚げるその歓呼は――過去三世紀間の威力を誇る東照宮の覇業も、内部から崩れかけて行く時がやって来たかと思わせる。中には、一団の女中方が馬籠の町のなかだけを全部徒歩で、街道の両側に群がる普通の旅行者や村の人たちの間を通り過ぎるのもある。桃から山桜へと急ぐ木曾の季節のなかで、薩州の御隠居、それから女中の通行のあとには、また薩州の簾中の通行も続いた。

第七章

一

文久三年は当時の排外熱の絶頂に達した年である。かねてうわさのあった将軍家茂の上洛は、その声のさわがしいまっ最中に行なわれた。