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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
同時代に満足しなかったところから、過去に探求の目を向けた先人はもとより多い。その中でも、最も遠い古代に着眼した宣長のような国学者が、最も新しい道を発見して、その方向をあとから歩いて出て行くものにさし示してくれたことをありがたく思った。
「勝重さん、風引くといけないよ。床にはいって、ほんとうにお休み。」
半蔵は行燈のかげにうたた寝している少年を起こして、床につかせ、それからさらに『静の岩屋』を繰って見た。この先師ののこした著述は、だれにでもわかるように、また、ひろく読まれるように、その用意からごく平易な言葉で門人に話しかけた講本の一つである。その中に、半蔵は異国について語る平田大人を見た。先師は天保十四年に没した故人のことで、もとより嘉永六年の夏に相州浦賀に着いたアメリカ船の騒ぎを知らず、まして十一隻からのイギリス艦隊が横浜に入港するまでの社会の動揺を知りようもない。しかし平田大人のような人の目に映るヨーロッパから、その見方、その考え方を教えられることは半蔵にとって実にうれしくめずらしかった。
『静の岩屋』にいわく、
「さて又、近ごろ西の極なるオランダといふ国よりして、一種の学風おこりて、今の世に蘭学と称するもの、則ちそれでござる。