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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

かねて前触れのあった長崎行きの公儀衆も、やがて中津川泊まりで江戸の方角から街道を進んで来るようになった。空は晴れても、大雪の来たあとであった。野尻宿の継所から落合まで通し人足七百五十人の備えを用意させるほどの公儀衆が、さくさく音のする雪の道を踏んで、長崎へと通り過ぎた。この通行が三日も続いたあとには、妻籠の本陣からその同じ街道を通って、新しい夜具のぎっしり詰まった長持なぞが吉左衛門の家へかつぎ込まれて来た。

吉日として選んだ十二月の一日が来た。金兵衛は朝から本陣へ出かけて来て、吉左衛門と一緒に客の取り持ちをした。台所でもあり応接間でもある広い炉ばたには、手伝いとして集まって来ているお玉、お喜佐、おふきなどの笑い声も起こった。

仙十郎も改まった顔つきでやって来た。寛ぎの間と店座敷の間を往ったり来たりして、半蔵を退屈させまいとしていたのもこの人だ。この取り込みの中で、金兵衛はちょっと半蔵を見に来て言った。

「半蔵さん、だれかお前さんの呼びたい人がありますかい。」

「お客にですか。宮川寛斎先生に中津川の香蔵さん、それに景蔵さんも呼んであげたい。」

浅見景蔵は中津川本陣の相続者で、同じ町に住む香蔵を通して知るようになった半蔵の学友である。