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ゆめ

夢

和辻 哲郎

「新潮」1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页

青空文庫

しかし古人が戒めているのは、痴人に対して夢を説くことであって、痴人が夢を説くことではないと気づいて、ケチ臭い夢をケチ臭いままに書いて見たのであるが、そうやって反芻しているうちに二つのことに気づいた。それはいずれも覚めている時のわたくしにとって、おやと思うようなことである。

夢のなかでわたくしを押えつけていた力の一つは、渡し舟料を高く吹きかけた○○の娘である。それは左翼運動を代表して現われて来たはずであるが、わたくしは渡し舟料を払い得ない貧乏のためにその前に屈した。もう一つは電話を貸してくれなかった男であるが、最初垣根越しに相対した時の人相が妙にハッキリと記憶に残っている。若いころの寿美蔵と現在の清水幾太郎氏とを一緒にしたような顔であった。何かしゃれた和服を着流していたし、その邸はなかなか広大であったのであるが、その男が実にはっきりと、ノラクラ遊んで暮らしているやつは大嫌いだと言った。この言葉はわたくし自身に向けられていたのである。つまり資本家階級を代表して現われて来たらしい男が、わたくしを遊民として非難したのであった。左翼からは貧乏のためにやっつけられ、右翼からは徒食のためにやっつけられるというのは、どうも理屈に合わない。