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ゆめのごとくしゅつげんしたかれ

夢の如く出現した彼

青柳 喜兵衛

「月刊探偵」黒白書房、1936(昭和11)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,194 字 · 5 页

青空文庫

それから半歳も過ぎた頃、筆者はたまたま郷里博多へ帰っていた。旅行好きの次兵衛がひょっこり旅から帰って来て、「おい、夢野久作って解ったよ。あらぁ杉山の直樹さんたい」とは、久々の挨拶もそっちのけの言葉であった。と云うわけはこうである。

生活に追い立てられて旅に出た次兵衛が、纔に温まった懐をおさえて、九州の青年の多くが、その青雲を志し成功を夢みて、奔流する水道を、白波たつ波頭を蹴散らし蹴散らし、いささかのセンチを目に浮べて、悲喜交々、闘志を抱いて渡る関門の海峡を、逆に白波を追っていた連絡船の中で、夢野久作の正体を発見したのである。

「オオ、ジッちゃんじゃないか、此頃あたしゃ、こげえなこと、しよりますやなァ」と、額から鼻、鼻から頤まで暫くある、名代の顔に、恥い乍らも誇をひそめて、眼を細くし乍ら、長いことにおいては又久作さんと負けず劣らずの馬面で共に有名な、チョビ髭の尖った頤との一対の対面は世にも見事であったろう。その馬面に突きつけられた雑誌が、此れまでサンザ首をひねらせた新青年の夢野久作ものするところの、あの古博多の川端――筆者の産れた――あたりと櫛田神社の絵馬堂を織り込ンだ『押絵の奇蹟』