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ゆめのさつじん

夢の殺人

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,670 字 · 26 页

青空文庫

けれど彼女の方は割合大っぴらだった。他人がいてもはっきりと彼に好意を見せてくれた。是が又藤次郎にとってはひどく嬉しくもあり、はずかしくもあった。

斯うやって二ヶ月程は夢のようにたってしまった。ただ最後のものだけが残っていたのである。だが、之は藤次郎に最後の一線を越す勇気がなかったのではない、と少くも彼自身は考えていた。機会がなかったのである。機会さえあれは美代子は完全に彼のものとなっていたろう。彼はただ機会を待っていたのだ。

所が、今から半年程前に、彼にとって容易ならぬことが起った。即ち要之助の出現がそれであった。

要之助は、N亭の主人の遠い親戚の者であるが、今度店の手伝いとして、田舎からでて来たのだった。彼は真面目さに於いても、有望さに於いても殆ど藤次郎と匹敵した。然し其の容貌に於いて、藤次郎とは全く比較にならぬ程、優れていたのである。

藤次郎は決して立派な顔の持ち主ではなかった。実をいうと、彼が美代子に対して恋を打ち明けるのに、一番ひけ目を感じていたのは自分の顔であった。どう贔屓目に見ても彼を美男とは云えない。非常な醜男ではなかったけれど決して美しくはなかった。