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ゆめのさつじん
夢の殺人
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,670 字 · 26 页
まだしくしく痛む腹をおさえながら藤次郎は暫く天井を見ていた。軈て要之助の方を向いて、
「おい君、君」
とよびかけた。けれど要之助はこのとき真に眠っていたのかどうだったか、兎も角、全く知らん顔をして眼をつぶっていた。
若し此のとき、要之助が、藤次郎に対して返事をするか、又は藤次郎が彼をゆりおこすかして、当然二人の間に或る会話が取り交されたならば、或いは二人の中の一人が、生命を失うようなことにはならなくてすんだかも知れない。然しとうとう要之助は目を開かず、藤次郎もそれ以上、彼を起そうとはしなかった。
翌日、藤次郎は腹痛と称して終日ねた。
彼は腹よりも胸が苦しかったのである。凡てはめちゃめちゃになったように思えた。
それでも未だ、彼はもしや、と考えた。藤次郎にとっては同じ屋根の下にいて、而ももう一人の女給と同じ部屋にねている美代子の所へ、要之助が忍び入るという事は一寸考えられなかったのだ。
それから彼はどうかして事実をつきとめようと決心した。しかしその後何ごともなかった。尤も藤次郎は決心はしながらも、じきに深い眠りに陥いってしまうのが常だったが。
ところが昨夜の出来事はもうどうにも何とも云いようがなかったのである。