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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

結婚したというものの、それもこの家と地所とを買入れて移って来てからのことであるかどうかさえ、よくは分らない。以前は青山にいた。多分部屋借りをしていたのだろう。その頃はやった文人趣味にかぶれて、画ごころのあったところから、梅や竹なんぞをひねくって、作れもしない絶句を題して、青山居士と署した反故が、張り貫きの箱の中に久しくしまってあった。芝の増上寺が焼けたのは、おれが青山にいた時だといっていた。鶴見はその話をかすかにおぼえている。

主人が結婚したのは青山にいた時か、現在の家に入ってからか、はっきりしないといったが、それが正式の結婚であったかどうかも疑えば疑われる。戸籍の問題などにもその頃は一般に不注意であった。とにもかくにも、この家の主人が既婚者の一人であって、現在妻を郷里に残して置き、しかもその妻に二人の女児を生ませていた。知り得る限りにおいて、これだけはその通りであったと認むるより外はない。

しからばおれの母は何であったろう。鶴見はこれまでも、幾百たびとなく、その事を思ってみた。彼の脳裡には、絶えず、往来する影がある。その影は解決を得ない不安をにれ噛んで、執ねくも離れようとしない。