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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

呪いの言葉であって好かろうはずがない。」

単にこの句を舌頭に転ずるには、彼に取って、本来余りにも複雑な意義を含む言葉である。鶴見はそこから俳諧の芸術的精神を見極めようなどとしたのでは毛頭ない。鶴見はこの言葉を心の奥の奥、深淵の中で、うち返しうち返してみた後に、すべての暗い雑念を遠離して、この単純なる告白の言葉を得たものと信じている。複雑に徹した単純である。彼は今それをよろこんでいる。わずかに一句の懺悔が彼を身軽にする。

聖徳太子四歳の御時のことと伝えられている。みずからその笞をうけんと、父皇子の前に進んで出られた。兄弟の諸王子たちが互にいさかって叫んでいたのを、父皇子がたしなめようとして笞を取っていられたのを、はやくもそれと知って、諸王子たちは逃げかくれている。太子だけは衣を脱いで父皇子を拝して、その罰をみずから受けられようとしたのである。鶴見はその伝説を思い浮べている。これこそ代衆生苦の御念願である。

鶴見はこれまで重荷にしていた痛苦がこの代衆生苦の御念願によって、冥々のうちにあっていつの間にか救われているのだろうと思う。それをそうと信ぜさせられた時、その市井の女はいよいよ些の歪曲をも容さぬ真相を示すのである。