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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

その中には乾電池を使った、機巧の複雑なものもある。しかし実際に試めしてみたところでは、そんな贅沢な器具よりも、簡単で自然なものの方が要領を得ていた。鶴見は学校へ行ってそれだけの智識を貰って来たのである。それから東京へ出掛けて、学校で見たものと同じ物を買入れて来た。喇叭状の聴音器である。鶴見はその喇叭をかれこれ十年も使っているので、表にかけた黒漆も剥げてところ斑に地金の真鍮が顔を出している。その器具を耳にあてがってみても、実は不充分である。言葉のうちには幾度も聞き返さねば分らぬ音韻がある。大抵の日常会話は、慣れてくれば、よくは聞えなくても想像がつく。話題が突然一転する。そうなると想像の糸がふっつりと断たれて殆ど判別が出来なくなる。客と対座するときには曾乃刀自が脇についていて、喇叭を通して、仲介に立って、客の言葉を受けて、それを伝えてくれる。聞き慣れたものの音声が、何といっても聞きよいのである。そうでない場合は、客に一方的な筆談を煩わすことになる。それでは客に対して気の毒でならない。そういうようなわけで、たずねて来てくれる客も絶えがちになり、こちらからはもとより往訪も出来ない。