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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

これが恐らく父の丹精によって集められたものであろう。反故同様に取扱われていても、鶴見の家に長らく残っていて、そんな書類の中でも異色を放っていた。鶴見はそれを見るたびに、父の自慢もまんざらではなかったらしいと思うのである。

鶴見はこうして、東京麹町隼町で生れたことになっている。府内は大小区に分けられていたかと思うが麹町隼町に変りはない。幕府でお鷹匠を住まわせて置いた町だといわれている。鶴見の家のあった方は、いわゆる三軒家の通りで、濠端の三宅侯の邸地からつづいて、その大部分は旗本の大名屋敷の跡であった。お鷹匠ばかりでなく、三宅侯の邸内にはあの画技に勁烈な意気と共に軽妙な写生の一面を拓き、現実に早くから目を醒ましていた蘭学者の渡辺崋山が住んでいたのである。その家はどのみちここから直ぐに手の届きそうな近所であったに違いない。鶴見の生れた場所はそんなような由来と歴史とを持っていた。

鶴見にはこの町名に因み、動物に因んだ隼男というのが好ましかった。彼がここで特にそういうのは、別に正根という名を持たされていたからである。父親の同僚に誰か読書人がいて、隼の字面の殺伐さを嫌って、こんな雅名を与えたものであろう。