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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

近郊の有度村の農家から、草薙社に奉納の花火があるから一度は見ておいてもらいたい、桟敷も好い場所を取ってあるという。今の主人の父親がまだ隠居せぬ時のことであった。花火のようすはその前から若主人を通じて聞かされていた。打揚も多数あるが、その夜の興味の中心は流星という仕掛ものにある。そしてその仕掛の特殊の構造も図示されたので、大概は承知していた。

当日は若主人が迎えに来て、丁重な夕食を相客と一しょに馳走になった。膳の上には一皿の小魚の煮附が載っている。それがもろこであると説明しておいて、老主人はひどく土地の訛のある言葉でなおもいい足した。自分は海の魚をあまり好かない。このもろこは近所の川で今朝漁ってきたものであるというのである。鶴見にはそれが何よりの珍味であった。

老主人は草薙社への参道である一筋の夜みちを幼児の手を引くようにして、鶴見をみちびいて、親切にも案内された。人家もない畑の傍をたどって行くので足もとは暗い。その上に人が先を争って押合っていたからである。

社前に著くと、提灯や露店などの明りがさして薄ぼんやりと明るくはなっているが雑沓はいよいよ激しい。