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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

朝茶の炉手前は何かしら苦業を修する発端で、その日も終日不可解の茶の渋味を呪法に則るごとき泡立てに和らげて、静座しつつ、楽の茶碗を取りあげて、ひとりで苦しんで喫してあるべき運命の前提のようにも思われた。父は閑日月の詮議よりもむしろその方をよろこんでいたのだろう。そこに父の平生抑えていて弛めぬ克己心の発露がある。こうして父は苦行の道を択んで一生を過したといって好い。

こんな事がある。会席の真似事をして銅鑼を打つ。会席では用意が整えられたしらせに銅鑼を打って、路次の待合客に入室をうながす合図とする。それを打つには秘訣がある。呼吸がある。それで傍から父の打つのを聞いていると、その心意気があたかも敵陣へ突き進む時の決意を示すように響いて来るのである。家族のものがそれを「まるで忠臣蔵の討入ですね」といって笑った。

父の茶道はまずそんな風格のものであった。

新築と共に国から一人の叔母が家事の監督がてらに上って来た。その叔母の顔には特徴があった。長面で頬がやつれていて眉間の中央に目立って大きい黒子がある。それが神々しく感ぜられる。唇にはいつも寂しい微笑を含ませ、眼差しにはいつも異様な閃めきを見せている。