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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
先天的な自然の生命はいみじくも悟得されようが、鶴見が懐抱しているような、無碍自在なる事象界の具体性が実証されているものとはどうしても思われない。譬喩があって象徴がないからである。そこに宗教哲理の窮極はあっても、芸術とは根本の差が見られるということになる。
また考えて見る。伝えるものと承けるものと二人相対している。そして微笑する。仏々相照というようなことにもなるか知れないが、それでも困る。誰にでも見える帰納的な表現が欲しいものである。芸術がただその事を能くする。
鶴見は聾になってから、いつかしらに独語をする癖がついている。いつもは口のなかで噛みつぶしているのであるが、今思わず「芸術」という語に力を入れた。それでその言葉がかれの口を衝いて洩れてくる。老刀自はまたかと思って、取り合わずに、老眼鏡をかけて針のめどに糸を通そうとして熱中している。
鶴見はなお思いつづけながら、俄かに気を交して、娘の方に振向いて、「さあ。どうだろう。少し休んで、あの梅の枝を手折って来てね、ちょっと工夫して、一輪ざしに活けて見せてくれないか。」鶴見はそういい放して置いて、自分は自分で、やはりさっきからの考を追っている。