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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

かれはこの弱な無名の若者の中に、その身を覆うていると想像される暗い影の中に、あの反抗心と絶望的な苦悩を持っているバイロン卿をえがこうとするのである。無理無体なことではあるが、かれはこの若者を傭って、仮托してまでも、バイロン卿のえらさを現前したかった。要するにこの若者を憑座に据えてこの大詩人の乗り移る魂の声を聞こうとしたのである。鶴見にはどうかするとこういうような考え方をして、情感の一時の満足を得ようとする妙な気まぐれがある。

鶴見はしばらくうつけた考に耽っていたが、何のかかわりもないのに、仮托の役に使われたこの若者こそ迷惑なことである。透谷の『蓬莱曲』がとんだ罪を作った、そう気がついて見ると、鶴見は心のうちでこの友人に対して、すまぬことを考えていたと詫びるより外はなかった。

透谷には『蓬莱曲』以外に、少し後になって出したものに『宿魂鏡』がある。観念小説だという評判がわけもなく鶴見少年の心を打った。かなりむずかしい短篇である。これもやはり『国民之友』の附録に載せられたものである。心理の藪がその下に通ずる路を暗くしていた。少年の好奇心がその迷路をおぼつかなくもたどらせた。