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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

一度久留米近傍のさる名家に嫁したが、その縁も長くはつづかずに出戻ってきた。その後は縁故のある諸家に転々と預けられた。どこでもその取扱に手を焼いたからである。鶴見の家がその最後の選に当ったのは鶴見の家が旧臣のことであり、鶴見の父親の厳格な性行が認められ、その上に家は閑散であり、そこに入れておけば、自然に茶道などの風雅な教養の下に好感化を及ぼすだろう、そんな望を抱いていた人たちから父は見込まれたのである。そしてその問題の女性を鶴見の家で余儀なく引受けた。それがはからずも鶴見に苦い閲歴を負わした端緒となったのである。

鶴見の相手になった女性の手ごわさは始から知れていたのであるが、それでいてどうしてもその悪関係を断ち切り難かったのは性慾のなす業であった。性慾は実は二人の間を繋いでいたのではなかった。もし繋いでいたならば、そのきずなをあるいは断ち切ることもできたのであろう。しかるに二人は性慾を別々の意味で享楽していたのである。その間に共通のきずなはなかった。鶴見の方には盲目の衝動あるのみで、相手には性慾に加工した手練手管があった。鶴見は好い加減にそれに乗せられていたのである。