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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

継母は留守であった。父は小姓でも抱えたような気になって、鶴見に世話をさせて喜んでいる。「あのなあ、うちのみきね、あれも困りものだ。それに」といいさして、老顔に深い皺を寄せる。いつにない父のうち解けようである。みきというのは継母の名である。鶴見は父のこの言葉を聞いて、その先きを恐れた。その先を聞くというのは如何にも辛かった。鶴見にはおおよそのことは分っている。それで別事にまぎらして、その話はそれなりに伏せてしまった。父親にはどこか女嫌いというところも見えていた。そんなこともあったのである。

父親は七十の古希に、国許で同士集まって、歌仙であったか、百韻であったか、俳諧を一巻き巻いた。それを書物にして配りたいという。書物は『八重桜』といった。鶴見が受合って、印刷させて、和綴の小冊子が出るようになった。端書きも添えておきたいという。鶴見が代筆をして、一枚ばかり俳文めいた文章を書いた。父は鶴見の文章を読んで、はじめて子供の文才を知って、少しは心を安めたようであった。鶴見はそれがうれしかった。

性慾の磁気嵐、人生の球体面に拡大する黒点、混迷と惑乱のみなもと、それもいつしか過ぎ去った。