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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
ただ思い出すともなく思い出されるのをいかにともすることが出来ない。口があいて洩れてくる水を塞ぎとめるだけの力を、かれはもっていないのである。
まず藤村がおもかげに立つ。鶴見が藤村をはじめて訪ねたのは、『落梅集』が出る少し前であったかと思う。そう思うと同時に、種々雑多な記憶がむらがって蘇ってくる。その当時藤村は本郷の新花町にいた。春木町の裏通りを、湯島切通しの筋へ出る二、三丁手前で、その突き当りが俗にいうからたち寺である。藤村は親戚の人と同居して、そこの二階で起臥していた。
その二階というのが、天井も張らずに残しておいたような室で、見ると室の隅々には無造作に書物が積み重ねてある。後年の藤村が机に一冊の書の置かれてあるのも嫌って、あたりを綺麗にかたづけた上で、客に対っていたあの潔癖に比べると雲泥の差であるが、かえってこの方が親しみ深くもあった。
藤村はそれからやがて小諸へ行くことにきまり、その仕度をしていた時分かとおもう。鶴見は俳人の谷活東と一しょに新花町を訪ねたことがある。この訪問は藤村からすすめられて、それに応じたものではなかったか。その辺の細かな事情はよくはおぼえていない。