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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

藤村にくらべれば花袋は単純である。藤村のように解決のつかぬものを胸中に蔵してはいなかった。妓と酒とはいわば風流のすさびであろう。そういう境地に韜晦して、白眼を以て世間を見下すという態度には出でなかった。南朝の詩でも朗吟すれば維新の志士のおもかげすらあった。それが『蒲団』を書いた花袋である。風流人という文人かたぎの本性においては終始かわらぬものがあったが、ただ一図に物を思いこむと、それが強い自負心のうちで高揚される。かれが自然主義に熱中したのもそれがためであろう。

かれはまた山川に放浪した。藤村のように自然を生活するのではなくて、自然のうちに身心を没却する。山川の勝境にわけ入って人間世界の拘束を忘れようとする。そう見る限り、花袋は人生を煩累と思っていたにちがいない。それで花袋は旅をしつづけた。かれほどよく歩いたものも少い。それにもかかわらず、かれは病んで、自家の屋根の下で、無事に死んで行った。皮肉といえば皮肉である。そう思ってみて、鶴見は一抹の寂しさを感ずるのである。

花袋はあれだけの旅行家であっても、ただ一つ、ドオデエのプロォヴァンスというようなものをもたなかった。