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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

『死者の書』は鶴見が数年前から見たいと心がけていながら、手に入れ難かった本の一つである。それを昨夜はゆっくり繙くことが出来た。感得という言葉はこういう場合に使われるのであろう。彼はそう思って丁寧にその書を翻して行った。すべてが調子を異にしているので、初のうちは少し取り附きにくい。それでも頁が進んで来るままに、文義を蔽うているかの如く見えた闇から脱して、読者はふいときらきらしい別天地に放り出される。今までにはあり得なかった暁が開けて来る。鶴見もまた、藤原南家の一の嬢子と共に風雨の暴れ狂う夜中をさまよいぬいた挙句の果、ここに始めて言おうようなき「朝目よき」光景を迎えて、その驚きを身に沁みて感じているのである。

鶴見は今『死者の書』の中でその事を叙述してある一段を想い起して太い息をつく。迢空さんが姫に考えさせた「朝目よし」の深い意義が彼が身にも犇と伝って来るからである。姫の抱懐する心ばせには縦横に織り込まれる複雑な文彩が動いている。創造の意義である。それゆえに微妙であり清新である。その意義は絶えず生長して行く。

人間には執心というのがある、この事ばかりはどんな障りがあっても朽ちさせまいとする念願がある。