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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

「君は、何を云うんだ?」検事は思わず度を失って叫んだ。

「そうなんだ支倉君。あの屍体――いや動けない生体が、自転したからなんだよ。たしか君は、四肢の妙な部分に索痕が残っていたのを憶えて居るだろうね。あんな所を何故犯人が縛ったかと云えば、精神の激動中に四肢の一部を固く縛って血行を妨げると、その部分に著しい強直が起るからなんだ。それと同じような例が、刑務所医の報告にもある事で、死刑執行前に殆んど知覚を失っている囚人の手首を縛ると、全部の指が突張ってピインと強直してしまうそうだがね。この事件でも犯人は奇怪な圧殺をする前に、浄善の手足に紐を結び付けて置いたのだよ。それを詳しく云うと、まず両膝と両肘を立てて、腕は上膊部の下方、肢は大腿部の膝蓋骨から少し上の所を、俗に云うお化け結びで緊縛して置いたのだ。それから、その緊縛を右膝と左腕、右腕は左膝と結び付けて、その二本の紐を中央で絡めグイと引緊めたので、浄善は頗る廻転に便宜な、まるで括猿みたいな恰好になってしまった。そうして置くと、やがて強直が始まるにつれて、当然関節の伸びる方向が違うからね。二本の紐が反対の方向に捻れて行って、浄善の身体が廻転を始めたのだ。