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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

そして、強直が極度になってピインと突っ張ってしまう頃には、それに加速度も加わって、まるで独楽のような旋廻になってしまったのだよ。そう判ると、格子扉から落ちて来る唯一の光線の中で、宛ら映写機のフィルターのように旋廻していたものがあった――それが取も直さず、浄善だったと云う事が判るだろう。勿論それが、千手観音に運動錯覚を起させて、目撃者に細かい識別を失わせてしまったのだ。事実、犯人は至極簡単な扮装で、画像の前に、像の衣の線と符合するように立っていたのだったよ。そして、それ以前に、まず屍体を廻転させて、それが頂点に達した時紐を解いたのだ――無論加速度で、暫くは廻転が止まなかったと、思わなければならないだろう。それから犯人は、笙の鳴り出す時刻に近附いたので、頃やよしと階下に下りて行った。所が、智凡尼は入るとすぐ、千手観音の画像が不気味な躍動をしているのを、発見したのだったけれども、これは屡出逢う事で、とうに脳裡の盲点になっていたのだから、当然気にしなかったと同時に、その時階下が、誰もいない空室だったと誤信してしまった。で、その一瞬後に、階上に動いている影を発見したのだったけれども、嵌格子を斜下から眺めて、そこに影らしい珍しいものが、チラッと映じたのみの事で、それをすぐに確かめようとはしなかった。