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むゆうびょうしゃのし

夢遊病者の死

江戸川 乱歩

「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,121 字 · 22 页

青空文庫

四畳半と三畳の狭い家が、畳から壁から天井から、どこからどこまでジメジメと湿って、すぐに父親を聯想する様な一種の臭気がむっと鼻を突く。それに、八月のさ中のことで、雨が降ってはいても耐らなく蒸し暑いのである。

「エッ、死んじまえ、死んじまえ、死んじまえ……」

彼はそこにあった、鉛の屑を叩き固めた様な重い不恰好な文鎮で、机の上を滅多無性に叩きつけながら、やけくその様にそんなことを怒鳴ったりした。そうかと思うと又、長い間黙りこくって考え込んでいることもあった。そんな時、彼はきっと十万円の夢を見ているのである。

「あああ、十万円ほしいな。そうすれば働かなくってもいいのだ。利子で十分生活が出来るのだ、俺の病気だって、いい医者にかかって、金をうんとかけたら、治らないものでもないのだ。親父にしてもそうだ。あの年になって、みじめな労働をすることはいらないのだ。それもこれも、みんな金だ、金だ。十万円ありさえすればいいのだ。こうっと、十万円だから、銀行の利子が六分として、年に六千円、月に五百円か、すてきだな……」

すると彼の頭に、いつか木綿問屋の番頭さんに連れられて行ったお茶屋の光景が浮ぶのである。