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おおいなるもの
大いなるもの
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,492 字 · 7 页
わびしくこぼす涙を、年寄の涙もろさから自と流れ出るものと思いなすかもしれない。
けれ共、その心を探り入って見た時に、未だ若く、歓に酔うて居る私共でさえ面を被うて、たよりない涙に※ぶ様になる程であるか。
私は静かに目を瞑って想う。
順良な、素直な老いた母は、我子等の育い立ちを如何ほど心待って居る事であろう。
日一日、時一時、背丈の延びると共に心も育って行く。いかほどの喜びを以てそれをながめて居る事であろう。いつか子の背は、我よりも高く、その四肢は、若く力強く、幾年かの昔、自分の持って居た若き誇り、愛情をその体にこめてある事と想うて居る。
我子の愛に満ちた声を待ち、優さしい手触りに餓えて居るであろう。
けれ共、その子は、親を振向かなかった。
同じ手の力を持ち、顔の輝きを持つ者共と互して、夜は燈の明るい賑いの中に、昼は、自分の好きな事ばかりをして居るのを知った時の悲しみは如何ばかりで有ろう。
親を顧みぬ。
何故に?
我身のいとしさ故。
我に換うべきものはないからと、その人々は答うるで有ろう。
斯の如き人々は、箇人主義の胸の上の水泡となって数知れずただようて居るのである。