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おとなのめとこどものめ

大人の眼と子供の眼

水上 滝太郎

「改造」1923(大正12)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,719 字 · 10 页

青空文庫

叔父は不思議そうな顔をして見おろしていたが、目尻に微笑が浮かんだので、自分は安心して重ねてきいた。

「百円よりも多い? 少ない?」

「多いとも、倍も三倍も多いだろう。」

自分は嬉しさに顔が紅くなる位だったが、あまり無雑作に、かつ意外な返事だったので、半信半疑だった。

「それじゃあ叔父さんは?」

「叔父さんか。叔父さんは百円の半分のまた半分位かな。」

そういって太い声で笑った。

父の月給が百円より多いらしく思われて来た事は、やがて自分も白い馬に乗ることが出来そうな気持を起こさせた。嬉しくて堪らなかった。そうして、そういういい返事をしてくれた叔父が、やはり偉い人に思われた。叔父さんの月給が、百円の半分のまた半分なんていうのは嘘にちがいない。嘘だからこそ後で笑ったのだと思った。

その馬上の紳士の姿は、二度と見たことがないが、それから三十年たって、自分は百円の月給取になった。その時、自分は馬に乗るどころでなく、一家を構える力もなく、下宿屋の二階にくすぶって、常に懐中の乏しさに難渋し、朝夕満員の電車に鰯の鑵詰の姿をして乗らねばならぬ身の上だった。もちろん、物価が驚くほど高くなったことと、貨幣の直打の変わったことを考えに入れなければならないが、しかし子供の時に考えた百円は、今日の壱万円よりも拾万円よりも百万円よりも莫大な