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おおとりものせんにんつぼ
大捕物仙人壺
国枝 史郎
「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页
「そうかなア、不思議だなア」トン公は仔細らしく考え込んで「でもお前伊丹屋といえば江戸で指折の酒屋じゃねえか。そこの養女ときたひにゃア云う目が出るというものだ」
「そりゃあそうだよ。云う目は出るさ。でもね、本当の幸福ってものは、そんなものじゃないと思うよ」
「それにお前伊太郎さんは、お前の好きな人じゃアねえか」
「嫌いでなかったという迄の人さ。それにどうも妾とはね、気心がピッタリと合わないのだよ」
「ふうん、そうかなア、変なものだなア。……だが、オイ、そりゃア我儘ってもんだぜ」
しかしお錦は黙っていた。
「だがマアお前と逢うことが出来て、俺らほんとに嬉しいよ」ややあってこうトン公が云った。
「お前はそうでもあるめえがな」
「いいえ妾だって嬉しいよ」本心からお錦は云うのであった。「何といったって昔馴染だからね」
「そう云われると嘘にしても俺らは素敵にいい気持だよ」
なるたけ人のいない方へと二人は歩いて行くのであった。
「それじゃお前さんはここ当分玉乗の一座にいるんだね」
「他に行き場もないからな」
「それじゃいつでも逢えるのね」
「だが余り逢わねえがいい、今じゃ身分が異うんだからな」