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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

「お客様? どなただな?」

「伊丹屋の娘だと仰有いまして、眼の醒るようなお美しい方が、駕籠でお見えでございます」

「ああそうか、通すがよい」

間もなく部屋へ現われたのは、盛装をしたお錦であった。

「お錦殿か、よく見えられたな」義哉は愛想よく声を掛けた。

「昨夜はお助け下されまして、お蔭をもちまして危難を遁がれ、何とお礼を申してよいやら」

お錦は手をついて辞儀をしたが、「お礼にあがりましてござります」

其処へ小間使いが現われて、頂戴物の披露をした。

「それはそれはご丁寧に。そんな心配には及ばなかったものを」義哉はかえって気の毒そうにした。

一人は美男の若侍、一人は妖艶な町娘、それに男は武士とは云っても、清元の名手で寧ろ芸人そうして女は其昔は女軽業の太夫である。それが春の日の閑静な部屋に、二人だけで向かい合っているのであった。

二人はしばらく黙っていた。蒸されるような沈黙であった。

「おおそうそう、杉の手箱をお預かりしてあったはず、お持ち帰りになられるかな」やがて義哉はこう云って、ものしずかに立ち上りかけた。

「ハイ」と云ったが、周章てて止め、「ご迷惑でないようでございましたら、その手箱はもう少々お預かりなされて下さいますよう」