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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

ちょうどここまで引いて来た時、どうしたものか一の絃が、鈍い音を立ててブッツリと切れた。

「これはおかしい」と云いながら三味線の棹を膝へのせ、義哉は小首をかたむけた。

「一の絃の切れるのは、芽出度いことになっているが、どうもそうとは思われない」彼は何となく不安になった。「変ったことでもなければよいが」

帰って行ったお錦のことが、妙に気になってならなかった。で、三味線を掻いて遺ると彼は急いで立ち上った。

「お花お花」と小間使を呼び「ちょっと私は出てくるからね。この手箱をしまっておくれ」

云いすてとつかわ家を出ると、愛宕下の方へ足を向けた。

暮れそうで暮れない春の日も、愛宕下へ来た頃には、もうすっかり暮れてしまって、人の顔さえさだかでなかった。その時こんもりと繁り合った、林の中から云い争うような男女の声が聞こえてきた。

さてこそ! というような気持がして、義哉はそっちへ走って行った。

そこは林のずっと奥で、丘になろうとする傾斜地であったが、香具師風をした八九人の男が、一人の娘を真中に取り込め、口汚く罵っていた。その娘はお錦であった。それと見て取った小堀義哉は、足音荒く走り寄ったが、