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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

あちらの畑の中の柿の木の上で声がする。

「新ちゃん、沢井の道場がこのごろ開けたってなあ」

「そうかい」

「それでね、女の先生が来たんだとさ。女の先生だから薙刀でも教えるんだろう」

「そうか知ら、薙刀はこわいや」

お松が通りかかるとも知らず、沢井の道場のこのごろの噂。

「薙刀は一段違いだからな」

「そうさ、薙刀は一段違いだから、油断してかかるとやられるとさ」

「明日あたり見に行こうか」

「見に行こう。だが、先生にしかられると悪いからな」

「見に行くだけならよかろう。それに、薙刀の武甲流というのは、もとは甲源一刀流から出ているのだと先生がいったよ」

「そうか知ら」

「女でも先生になるくらいだから、強いだろうな」

「そりゃ強いさ」

お松は立ちどまって、柿の木の上の子供の話を聞きながら、おかしさに堪えられませんでした。沢井の道場を開いて、剣を教えずして、文字を学ばしめているのに、それが誤り伝えられて、自分のことが薙刀の師範として子供らの噂にのぼっている。それにしてもこのあたりの子供、柿の木によじながらも武芸の話。路傍に置捨てられた剣術の道具も、この子供のそれに違いない。

話によれば、近いところの先生の許へ、剣術の稽古に行くその道草らしい。