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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

「行きました」

「どうですか、いいところですか」

「そうさ、人によってだが、わたしはあまり好かないよ。山陽にいわせると、天下第一等のところになっているが、山陽という男が、その実あんまり歩いてはいないのだからな。それに漢学者流の誇張で書きまくっているのだから、行って見て感心する人より、失望する者が多いだろう」

「山陽は足跡海内にあまねしとか、半ばすとか自慢をしていますが、この辺までは来たことはないでしょう」

「ないとも。耶馬渓を見てさえあのくらいだから、この辺から神高坂、穂高、槍、大天井あたりの景色を見せたら、仰天して、心臓を破裂させてしまうかも知れない。妙義だって、よくは見ていないのだ……雲霧晦冥の時の妙義を、上州と信濃のある地点から見て見給え、とても、耶馬渓あたりの比ではないのだよ」

「時に、四面もうみな雪ですね」

「ああ、四面みな雪で懐ろだけが、こうしてあたたまっている」

二人は猪をパクつきながら、一盞を試みている。

万葉集を行李の中から取り出して、ここに持ち来すべく出て行ったお雪は、廊下でバッタリと男妾の浅吉に出逢いました。

浅吉は、気の抜けたような面をして、手に櫛箱を提げながら、通りかかって来たものですから、