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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

「浅吉さん、どちらへ」

「お雪ちゃん、お寒くなりましたね」

「ええ、寒くなりました、お風呂ですか」

「いいえ、これから、あなたのところへお伺いしようと思っているところです」

「そうですか……」

と言ってお雪は、浅吉の手に抱えている櫛箱に眼をつけますと、

「お内儀さんにいいつけられたものですから、仕方なしに……」

「何ですか、浅吉さん」

「あなたのところの先生にお髪を上げておやりなさいって、お内儀さんからいいつけられたのですよ」

「まあ、うちの先生に?」

「ええ」

浅吉は浮かぬ面に、一種の恐怖をさえ浮べておりました。

「それは御苦労さま」

「ええ、お前は髪を結うのが上手だから、先生の髪を結ってお上げなさいと、お内儀さんにいいつけられたものですから……」

「そうですか、それは御苦労さまでした」

お雪は愛嬌にいって、浅吉と連れ立って自分の部屋へやって来ましたが、そこへ近づくと、浅吉の恐怖と嫌厭の色が一層深くなって、ゾッと身ぶるいをしました。

浅吉をつれて自分の部屋へ戻って来たお雪は、障子をあけて見て、

「おや、先生がいらっしゃらない」

いるとばかり思っていた机竜之助がいませんでしたから、お雪も案外に思い、浅吉も、