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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

こもよ

みこもち

ふぐしもよ

みふぐしもち

この岡に

菜摘ます児

家きかな

名のらさね

そらみつ

やまとの国は

おしなべて

吾こそをれ

しきなべて

吾こそませ

われこそはのらめ

家をも名をも

一通り訓をして、それからいちいち字義の解釈を下して、全体の説明にうつりました。

「この歌は、雄略天皇様が、あるところの岡のあたりで、若菜を摘んでいる愛らしい乙女を呼びかけておよみになった歌で、これ、そこに籠を持ちくしを持って菜を摘んでいる愛らしい乙女よ、お前の家はどこじゃ、聞きたいものじゃ、名乗れ、自分はこの国を支配する天皇であるぞよ……というお言葉、いかにも上代の平和にして素朴な光景、一国の元首が、名もなき乙女に呼びかけ給う壮大にして、優美な情調が一首の上に躍動している。すべて万葉の歌は……」

と講義半ばのところへ、大戸を押し開いて、あわただしく駆け込んだものがありましたから、講義が一時中止になりました。

「惜しいことをした、ホンのもう一息のところで……」

と言って、講義半ばの空気を壊したことをも頓着せず、炉辺へしがみつくようにやって来て、

「熊を一つ取逃がしてしまった、突くにはうまく突いたが、槍がよれたから外れちまった、危ねえところ――」