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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

先生のは、もっと、ずっと以前に出立すべきはずでしたけれども、米友の方に故障もあったり、何かとさしつかえがそれからそれと出来たものですから、つい延び延びになってしまいました。

いよいよ出立の時は、近所隣りや、お出入りのもの、子分連中が盛んに集まって、板橋まで見送ろうというのを強いて辞退して、巣鴨の庚申塚までということにしてもらいました。物和らかな豆腐屋の隠居、義理固い炭薪屋の大将といったような公民級をはじめとして、子分のデモ倉、プロ亀に至るまでがはしゃぎまわってみおくりに来ました。

しかし、これらの連中は、みな庚申塚でかえしてしまい、あとに残るのは先生と、同伴の宇治山田の米友と二人だけ。

「米友様」

と道庵先生が呼びかけると、

「うん」

と米友がこたえます。

道庵がしゃれて褄折笠に被布といういでたち。米友は竹の笠をかぶり、例の素肌に盲目縞一枚で、足のところへ申しわけのように脚絆をくっつけたままです。二人ともに手頃の荷物を振分けにして肩にひっかけ、別に道庵は首に紐をかけて、一瓢を右の手で持ちそえている。米友は独流の杖槍。

「さて米友様、永の旅立ちというものは、まず最初二三日というところが大切でな……静かに足を踏み立ててな、草鞋のかげんをよく試みてな……そうしてなるべく度々休んで足を大切にすることだ」