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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
これが十月になると、焼ヶ岳も真白になってしまいます。けれども、まだこの道が通えないということはございませんが、十一月になりましては、もういけません」
とにかくに馬を進ませて行くに従って、秋の色は深くなってゆくばかりです。
「まあいいわ……」
五彩絢爛として眼を奪う風景を、正直にいちいち応接して、酔わされたような咏嘆をつづけているのはお雪ちゃんばかりで、久助は馬方と山方の話に余念がなく、竜之助は木の小枝を取って、折々あたりを払うのは、虫を逐うのかも知れません。
「大きな山……」
檜峠のおり道で、お雪が眼をあげてながめたのは硫黄ヶ岳です。
「いつも地獄のように火をふいている焼ヶ岳というものが、あの向うにありますよ」
久助が説明しました。
五彩絢爛たる島々谷の風光の美にうたれたお雪は、風相鬼の如き焼ヶ岳をながめて、はじめて多少の恐怖に打たれました。
「火を吹いているんですか?」
「あれごらんなさい、あのむらむらしているのは雲じゃありません、みんな山からふき出した煙ですよ。焼ヶ岳の頭は、人間ならば髪の毛が蛇になってのぼるように、幾筋も幾筋もの煙が巻きのぼっています」