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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「止せったら、止し給え、つまらん芝居をするなよ」

さすがの勇仙が弱りきって、泣かぬばかりに飛び廻っているのを気の毒に思ったか、仏頂寺が、今までつぶっていた両眼を見開いて、

「これなら打ち込めるだろう」

「ちぇッ」

と兵馬は打ち込まないで、刀を引きました。

「おどかすなよ、ほんとうに」

丸山勇仙は、ホッと安心して胸を撫で下ろす。刀を鞘に納めた仏頂寺、

「眼のあるのと、無いのとは、これだけ違う」

同じく刀を納めて、額の汗を拭いて兵馬は、

「その通り……」

と言いました。

いったん、総立ちになって、遠くこの光景を眺めた山の娘たちも、そこで静まりました。

やがて三人は、また打連れて歩き出す。これより先、まもないところに、屋根に拳石をのせた一軒茶屋がある。そこへ立寄れば過日の接戦の裏、五条源治の茶屋で知らないところを聞くことができたろう。兵馬もまた有力な手がかりを得たかも知れないが、そこは素通りしてしまって、塩尻峠を下り尽すと、塩尻の阿礼の社。

そこで、宇津木兵馬が聞き合せたところによると、どうも竜之助らしい一行が、これから木曾路へは向わないで、五千石の通りを松本方面へ赴いた形跡だけは確かであることを知りました。