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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

ともかくも松本平。そこが捜索の一つの根原地とならなければならぬ。

三人は、いざとばかり、塩尻の茶屋を立って、五千石の通りを松本へ向わんとする。

この宿の外れまで来ると、路傍の家の戸板に大きな絵看板が出ている。絵看板ではない、絵の辻ビラでしたけれど、大きなのを、けばけばしく掲げてあったところから、絵看板だとばかり思いました。

「ほほう、松本の町へ、海老蔵が乗込んで来たぞ」

丸山勇仙が早くもその大きな辻ビラの前に立ちました。見れば真中に大きく、

「江戸大歌舞伎 市川海土蔵」

と認めてある。海土の土がごまかされているのを知らず、丸山も仏頂寺も、等しく、ああ海老蔵が来たなと思いました。

宇津木兵馬も無論、土と老とを見分けるほどに興味を持ってはおりません。

海老蔵の名は、市川の家にとっては、団十郎よりも重いはずの名であります。

仏頂寺と、丸山が、従来全く芝居を見ない人間であるか、或いは最もよく芝居を見る人間であるか、どちらかならばよかったが、両人ともに話の種になる程度で海老蔵を見るには見ている。しかし無論、道庵流に皮肉に見ることなどは知らないし、武芸者の大雑把な頭に、海老蔵の名前だけがしみ込んでいるものですから、その絵ビラを見て、