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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

やがて張番していたお絹もやって来て、言い合わしたように、二人が鎧櫃の前後に手をかけて動かしてみたけれど、ビクとも応えません。

事実、この中へ、いっぱいの金銀が入っているなら――金銀でなく、贋金であっても、これへいっぱい詰められていた日には、一人や二人の手では、ちょっと始末にゆかない。

この暗澹たる座敷の中で、鎧櫃を前に、二人は顔見合わせて笑いました。

笑ったのがきっかけで、主膳は手持無沙汰の態でこの座敷を出かけると、お絹もついて座敷を出る。神尾は以前の居間へ戻ったが、もう法帖どころではない。

お絹も、そわそわとして落着かない。

気の知れないのは七兵衛で、この七日の間、夜も、昼も、仕出し弁当で鎧櫃の傍に頑張っていながら、今日という日になると、朝から出かけて、正午時分になっても、夕方になっても、とうとう夜になっても帰って来ない。

それを気にしているのは、むしろ神尾主膳とお絹とで、お絹の如きは幾度、その廊下を行きつ、戻りつして、この座敷を覗いて見るたびに、昼なお暗い室内に人の気配はなく、鎧櫃のみがビクとも動かずに控えている。

それを見るとホッと息をつきながら、また新たに心配のようなものが加わる。