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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
てっきり、これは百万石の加賀守のお供先が、何かの行違いで、わが道庵先生をつかまえて、暴圧を加えているのだな、とこう感づきました。それで彼は、この提灯の梅鉢の紋に向って、反抗の心が潮の如くわき出したのです。
しかし、これは少なくともこの際、米友の推察は立入り過ぎていました。邪推とはいわないけれども、筋道の考え方が生一本に過ぎていました。
いわゆる百万石、加賀様の御威勢は、この街道に於て、そんな圧制なものではない。むしろ、その寛大と、鷹揚と、自然、金銀の切れ離れのよい大大名ぶりは、この街道筋の上下を潤して、中仙道、一名加賀様街道といわれたほどに人気を占めていました。ついでにお気の毒ながら、その時分の下郎共の口の端にのぼった悪まれ唄を紹介すると、
人の悪いのは鍋島薩摩、暮六ツ泊りの七ツ立ち
というのがその一つ。
お国は大和の郡山、お高は十と五万石、茶代がたった二百文
というのもその一つ。
銭は内藤豊後守、袖からぼろが下り藤
というのもその一つ。
その他、参覲交代の大名という大名で、この下郎共の口の端にかかって完膚のあるのはないが、百万石、加賀様だけは別扱いになって、さのみ悪評が残らない――