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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
30 畜生谷の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页
いかに毒茸族が憎いからといって、茸の方から進んで人の口に飛び込んだのではない。その現行犯でないものをまでも捕えて、罪に落すのは酷といわねばなりません。
しかし右の毒茸族のうちでも、今宵の犯罪者は、極左に属したものでないことだけは、不幸中の幸でありました。
毒茸党の極左に属するものには、人間が手を触れただけで、その触れた部分を腐らせてしまうものがある。もしそれを取って胃袋の中へでも送ろうものならば、たちどころに内臓の全部を顛覆し、人間の外体を一昼夜もころげ廻って悩乱させ、その全身を紫斑色にして虐殺してしまう。それに比べると、今晩この連中を昂奮せしめた茸氏は、社民系に属するものと見てよいかと思う。
昂奮させ、反抗させ、或いは笑いを爆発せしめることはあるが、生命を奪うまでに、人体を苦しませることはしていないようです。だが、どちらにしても茸に中った毒は、河豚に中った時と同じことに、その薬がなく、救済方がなく、ただ時という医者をもって、生かすか、殺すかの処分を待つほかは手段がないそうですから、この場のなりゆきも、手を束ねて見ているよりほかはありますまい。
右の如く、底止することなき、突発の椿事が椿事をうみ、天井から先に火がついて、室内をパッとすさまじい明るさにしてしまいました。