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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
33 不破の関の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页
道庵が声をからしてどなっている。メダカが餌にありついたように、無数の雲助は寄りたかって、ハゲ茶瓶を振り立てつつ馬方蕎麦を貪り食っている。
十六
呆れ返って、馬から飛び下りて来た米友に向って道庵は、いかにこの場に集まった雲霞の如き雲助という種族が、愛すべき種類の人類であるかということを、滔々と説いて聞かせました。
道庵の昂奮した頭で説明された雲助礼讃は、言葉そのままで写すと支離滅裂になるおそれもある。よってこれを散文詩の形式で現わしてみると、こうもあろうかと思われる――
嗚呼、愛すべきは雲ちゃんなる哉。
わが親愛なる雲助諸君こそ、現代に於ける最も偉大なる自然児の一人である。
悪口は君達の礼儀であり、野性は君達の生命である。無所有が即ちその財産で、労働が即ちその貨幣である。家は無しと雖も、天を幕として太平に坐し、一本の竹杖がありさえすれば万里を横行するの度胸があり、着物が無ければ傘を引っぺがして着るだけの働きがある。
しかるに世間には往々、この愛すべき自然児たる雲ちゃんをつかまえて、道中筋の悪漢の代表でもあるかの如く讒誣する心得違いが無いではない。