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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

「誰ですか」

とお銀様が屹と向き直りました。

「へ、へ、つい、その、ちょっと失礼をいたしました」

「誰ですか、あなたは。何のためにこんなところへ来たのですか」

「へ、へ、ついその、何しましたもんでございますから」

「わかりました、お前はここへ盗賊に来たのですね」

「いや、そういうわけではございませんが、つい、その、へ、へ」

「お帰りなさい、お前たちにつけ覘われるような、わたしたちではありません」

お銀様は、いつもの見識で手強く叱りましたが、相手もまたそれで退くくらいなら、ここまでは出て来ません。

「そうおっしゃらずに、ちょいとお目にかかって申し上げてえことがございまして――ここをあけましてもよろしうございましょうか、御免こうむりまして」

いよいよ人を食った猫撫声で、こんなことをたらたら言いながら、早くもスルスルと襖へ手をかけて、二三寸あけてしまいました。

お銀様はまたその方を睨めたけれども、少しも動揺しません。

「没義道なことをすると、お前のためになりませんよ」

「へ、へ、実はな、お嬢様――」

お嬢様と言ったからには、相当にこちらの人柄に理解があるに相違ない。盗人に来たということは明らかだが、それにしても、このいけ図々しい猫撫声を聞いていると、ただ物質が欲しくて忍び込んだものとのみは思われない。