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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

更にない。大藩であれ、親藩であれ、斬ろうとするものを斬ることに於て、なんらの忌憚を持っていなかったのです。

大阪奉行の中に、内山彦次郎という与力があった。大塩平八郎以来の与力ということで、頭脳もよく、腕もよく、胆もあり、骨もあって、稀れに見る良吏であったということである。従って新撰組の横暴に対して、快かろうはずがない。たまたま八軒屋の岸で、新撰組が相撲取と大喧嘩をして、相撲取を斬って捨てたという事件がある。

隊長の近藤勇は、自身、町奉行に出頭して、無礼討ちのことを届け出でたが、待っていたといわぬばかりに内山彦次郎が、近藤勇を呼び留めて、奉行与力の職権で厳重に取調べたものである。近藤勇は、これがグッと癪にさわった。一応の届出に対して、直ちに相当の会釈あるべきものと信じていた小役人が、ほかならぬ新撰組の隊長に向って逆捻じとは意外千万、近藤勇は、傲然として、

「拙者は無礼討ちの届出に来たものでござる、貴殿の取調べを受けるために出頭したものではござらぬ、取調べの廉があらば会津侯へ申し伝えられい」

と言い捨てて、さっさと立帰ってしまった。

まもなく、内山彦次郎は、天神橋の袂で、駕籠に乗って帰る途中を殺されてしまった。