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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

という題を生徒に課しました。先生というのはつまり教師のことで、師の恩ということは、日ごろ口をすくして教えてあるのですから、もはや小さい頭にも充分の観念は出来ていると見たからでしょう。そうすると著者の隣席の同級の、しかも女の子でした、苦心惨澹して、石盤の上に認めた名文に曰く、

「先生ハ人ヲ教ヘテ、銭ヲ取ルモノナリ」

これを一読したその時の先生は、よほど短気の先生であって、これを見ると赫とばかりに怒り、

「いつ先生が銭を取った!」

その時分には、小学校に於ても相当に体罰が流行ったものです。いきなりその女の子にビンタを一つポカリと食わせましたが、少し神経痴鈍な女の子でしたから、別段、泣きもしないで、何の故に自分が打たれたのだか理解する由もないような面をしていたのと、その時の先生のすさまじいけんまくは、いまだに著者の目に残っている。

「何々ニ遊ブノ記」の記事文の型も、その前後に流行したもので、われわれ小学生も、必ずその書出しには、「コノ日ヤ天気晴朗」と、「空ニ一点ノ雲無ク」と、「一瓢ヲ携ヘ」は必ず書かせられたものです。雨が降っても、風が吹いても、天気晴朗と書かなければならないものだと心得ており、携えた一瓢の中は何物だかということは、説明を与えられることもなく、説明を求むるほどの知恵もなかったものです。