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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
しかし、今日、このところ、道庵先生のハイキングに当って、天気晴朗にはいささか申し分があるけれども、一瓢を携えたことだけは一点の疑う余地はありません。
三十二
道庵先生のハイキングコースは、上平館を出でて、通例だれもがする小高野から鞠場へかけての胆吹の表参道であります。
それを、一瓢を携えた道庵先生が、ふらりふらりと上り出すそのいでたちは、草鞋脚絆の足ごしらえをよくした、平生の旅の通りであります。顔面のある部分に少しずつ貼紙をしていて、ここにいささか異状があるのですが、貼紙というのは、一昨夜上平館の下へ迷い込み、進退谷まって、助けを呼んだあの時の名残りであります。
衣服の方の満身の創痍は、もう誰かの心づくしで、すっかり癒されている。そこで道庵先生がいい気持で、胆吹のハイキングコースにとりかかったことは珍しいことです。
江戸を出でて以来、中仙道をここまで百里にわたる旅路ですけれども、この途中ハイキングと名づくべきほどの経験はありませんでした。最も高い地点といえば、碓氷峠なのですが、あれはハイキングのためのハイキングではなく、国道の幹線が、当然上りになっているところを上り来ったまでであり、その他に於て高いところとしては、尾張の名古屋城の天主へ登った程度ぐらいのものでしょう。