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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

二十一

ことがここに至っては、いかに逸興の詩人騒客といえども、再び以前の興を取戻すことは不可能でしょう。

すべて、事は盛満を忌むもので、今宵の風流は、最初から興が酣わに過ぎました。こうなった以上、どのみち、舟を戻して興を新たにするよりほかはないでしょう――言わず語らず舳艫はしめやかにめぐらされました。

一方――どこをどうして泳ぎ着いたのか、ムク犬は完全に五大堂前の松島の陸の岸の上に身ぶるいして立ち上ると、そのまま息をもつかず、めざして走るところは、まさしく瑞巌寺の境内であるらしい。

果して瑞巌寺の門内、法身窟の前の真暗闇の中に、まっしぐらに走り入ると、その闇の中の行手から息せききって走って来る一人の人の姿と、ムクとが、バッタリと出会いました。

出合頭にムクが一声吠えると、

「まあ、ムク」

バッタリ行会った先方の人影が、狂喜の叫びを立てて、この犬に抱きついて、

「ムク! 遅かったねえと言いたいけれども、考えてみると、お前の来るのが遅かったのがよかったかも知れない、お前の来ることがもう少し早かろうものなら、かえって大変なことになったかも知れない、今となっては……どうしていいか、わたしにも分らない」