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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「ははア、よしきりじゃあるまいし、水の中にうじゃじゃけていたというわけでもない、奴等、舟をあの蔭につないで隠れていたのだな。そうして兵部の娘だけが舟に残っていて、ウスノロが食料品徴発と出かけたものなんだ。そうして、多少の食料にありついたから、これから河岸を変えようというのだ。あれを下流へ行けば飯野川の宿になり、それから、ずんずん下れば追波湾へ出るのだ、今では石巻方面よりも、あちらの流れが北上川の本流と言いたいくらいだ。さあ、しかし、こう認めた以上は、あいつらをこうして遠方からいい気でさげすんでばかりいてはならない、あれを追いかけなければならない、追っかけて手捕りにしなければならぬ使命と責任とを負う身だ――もう一ぺん、あの野郎を相手にロケーションを繰返さなければならない、今度は船頭共とは相手が違う、追いついた以上はこっちのものだが――追い過して海へでも追い出してしまってはならぬ」

というようなことが気懸りになると、白雲も実際、対岸の火事の如く、対岸の駈落者を興味半分だけで見ているわけにはゆかないことに胸をうちました。

二十八

田山白雲が船を出て行った夕べ、駒井甚三郎は、ひとり静かに船室に落着くと、「人が出て行った」